ヒトの祖先は食物のない状況を生き抜くために、驚くべき仕組みを作り上げた。
 それは、食物がなければ加齢を抑制して、遺伝子を長持ちさせるというシステムだ。
 この食物がない状態を人工的に作り出すのがカロリー制限=カロリスといえる。

 カロリスには、以下のメリットがある。

  1. 細胞の新陳代謝が促進される。
  2. 不可欠な細胞は保存される。
  3. 成長が抑制される。
  4. 効率的なエネルギー代謝
  5. DNAの安定性が増す。
  6. 免疫系の衰えが軽減される。

ホルミーシスとは

 カロリーを制限することは、ホルーミシス、つまり、良い意味でのストレスとなる。
 悪いストレスは寿命を縮めるが、この良いストレスは動物実験では60%も寿命を延ばすことが分かっている。

SIR2、SIRT1などの長寿遺伝子

 遺伝子レベルで、カロリスの効果が実証されたのはレオナルド・ギャランテ博士の業績である。
 1999年に、カロリスによって、SIR2(Silencing Information Regulator2)という長寿遺伝子が活性化されることを示したのである。

 当初、この業績は眉唾視されていたが、追試により多くの生物にこの遺伝子が存在することが証明された。

 ヒトの場合には、サーチュイン1、2・・・7(SIRT1,2・・・7)が確認されている。なお、このSIRTのTは2(Two)のことで、SIR21だと分かりにくいのでSIRT1がよいだろうと命名されいている。
 上記7つのサーチュインのうち、SIRT1が最もよく研究されている。SIRT1はカロリスにより活性化され、他の加齢要因(成長ホルモンや起炎物質)を抑制することが分かっている。

 姉妹遺伝子のSIRT3やSIRT4も、カロリス時にはエネルギー産生を促進することが分かっている。

成長 その功罪

 子供から大人になる過程では「成長」は重要だ。しかし、成人してからはどうか?

 大人になっても「成長促進因子」が完全にアイドリングの状態になるわけではない。その結果、がん細胞などの成育を促し、健康を損なう場合があるのだ。

 ただし、「成長促進因子」が活性化してしまうかどうかは、「何を食べるか?」によるところが大きいのである。

「何を食べるか?」が最も重要だ

 「成長調節因子」により加齢が進むかどうかは、普段食べている物と大いに関係がある。

 実は、カロリーそのものよりも「糖分」「蛋白質」の摂取量が大切なのである。

カロリスの生物学的効果

 カロリスを実践する前に、どんな効果があるのかをしっておこう。

  1. 血糖値と血中インシュリンを軽減する。
  2. 体脂肪を減らす。
  3. 成長促進因子を抑制する。
  4. 細胞減少を防ぐ。
  5. 体内炎症を起こりにくくする。
  6. 若々しい体を作る。

効果その1.血糖値と血中インシュリンを軽減する。

 血糖、つまり、血液中の糖分は、全身をめぐってエネルギーを供給している。血糖値があがると、直ちにインシュリンが分泌され、糖分は細胞内に取り込まれることになる。

 余った糖は、グリコーゲンという炭水化物の貯蔵庫に保管される。それでも余った分については、蛋白質や脂肪を作ったり、細胞を増やしたりといった用途にまわされることになる。

 このように、血糖とインシュリンは、体内で密接に連携し合っている。

血糖とインシュリンのペアは加齢を促進する

 したがって、血糖が上がってくると、インシュリンもどんどん分泌されることになる。

 この状態が続くと、確実に加齢が進む。実際、「血糖や血中インシュリン値が高いと、死亡率も高い」ことは、もはや周知の事実である。

 米国では全人口の7%、つまり2千万人が糖尿病に苦しんでいる。糖尿病になれば、心血管障害、網膜黄斑変性症、神経障害、腎疾患のような合併症もでてくるのである。

低血糖にすれば、長寿遺伝子が活動を始める。

 カロリスすると空腹時血糖値(8時間絶食後の血糖値)が下がる。

 空腹時血糖の正常値は100mg/dl以下だが、カロリスにより80mg/dl以下になれば、インシュリンは分泌されなくなり、前述のSIRT1という長寿遺伝子が働き始める。すると、不要な脂肪や蛋白が燃やされて、心疾患、炎症性疾患、糖尿病などの加齢疾患のリスクも減ることになる。

(省略図p.11)

カロリー制限か血糖制限か

 では、カロリー制限と血糖制限のどちらが重要だろうか?

 答え..「両方とも大切」である。

 カロリー制限と血糖の制限を同時に行うと、ホルミーシスの効果は増強されるからだ。

 そもそも、両者は同義ではない。カロリー制限は、血糖を下げるための重要な一手段ではあるが、血糖値を下げるためにできることなら他にもたくさんある。例えば、適切な食物を選ぶこと、調理方法を工夫すること、食事の時間帯や量を加減すること、運動を習慣化することなどでも血糖とインシュリンレベルを下げることができるのである。

血糖測定の重要性

 我々は、上述した様々な手段により、少なくとも12時間は血糖値が80mg/dl以下になるように計画している。そして、その方法論が正しいかどうかは、血糖値を測定することによって正確に評価できる。また、今後新たに導入しようとしている方法についても、血糖測定が有効な評価手段となるのだ。

 血糖値は、薬局で売っている測定キットを使えば簡単に分かる。

 もし、あなたの血糖レベルが高くても心配無用だ。我々だって最初は90~105mg/dl位だったのだ。しかし、80mg/dl以下を維持できるように努力を続けて、ようやくSIRT1を活性化させることができたのである。

エネルギーの充足

 「カロリスで血糖値が下がると、元気もなくなってしまうのではないか」と思うかもしれない。

 その正反対の「より活力にあふれることになる」が正解だ。

 細胞レベルでカロリスに順応してくると、ミトコンドリアというエネルギー工場が増えてきて、スタミナがついてくる。その結果、より健康で生産的に過ごすことができるようになるのである。

 そんなハッピーな状態にどれくらいでなれるかは、各人の現状や今に至る経緯にもよる。しかし、我々の経験上では、大体数ヶ月以内というところだ。

よいストレスとは

 ホルミーシスの項でも既に述べたように、よいストレス、すなわちフレンドリーなストレスは確かに存在する。

 たとえば、コルチゾールはストレスがあると血圧や血糖をあげるホルモンで、それだけ聞けば、なにやら悪いホルモンのようではある。しかし、実際には、たいていのカロリス実践者では、このホルモンは高い値を示していて、その恩恵にあずかっているのである。たとえば、起床時の空腹時血糖は最低レベルだが、コルチゾールは脂肪を燃焼させることによって、早朝血糖を維持してくれるのだ。

 そのほかのフレンドリーなストレスとしてエピネフリン(アドレナリン)がある。これは「闘争かさもなくば逃亡かホルモン」ともいわれているが、カロリス実践者では高値を示す。このホルモンも、血糖レベルを維持するのに重要な働きを担っている。この本で瞑想法を学べば、このエピネフリンがもたらす覚醒と高揚感を利用して、さらに前向きに行動することができるようになる。

効果その2.体脂肪を減らす。

 本書は減量ダイエット本や脂肪燃焼本ではない。しかしながら、カロリスを行えば、必然的に体脂肪は減っていくことになる。

 平均的男性の体脂肪率が17~19%、女性は18~22%であるのに対して、カロリス実践者は6.7%で、これはオリンピック選手に匹敵する。

 カロリスでSIRT1が活性化されると、PPARgammaという脂質関連遺伝子が休止状態となる。この悪玉遺伝子が停止すると脂肪はもはや蓄積されず、効率的に燃焼されるようになる。

 では、脂肪と長寿にはどのような関係があるのだろうか?2004年のマサチューセッツ工科大学のマウス実験では、脂肪が減ったマウスでは寿命が延びることが示されている。ヒトにも当てはまるかについては引き続き検討されているが、低脂肪が心疾患、糖尿病などの加齢関連疾患のリスクを減らす事例は豊富に報告されている。

体脂肪が低いほど有利か?

 体脂肪は低ければ低いほど望ましいかというと、そういう訳ではない。体脂肪は体温保持、内臓保護、エネルギー貯蔵に役立っているのである。

 5%以下を目指す熱心な長寿原理主義者もいるが、あまりに体脂肪率が低いと女性では、月経が止まったり不順になる。女性アスリートの場合は、骨がもろくなり、パワーも不足してくるのだ。

 カロリス実践者の体脂肪が低くても大丈夫なのは、カロリー消費量が少ないがためである。必要以上に脂肪を減らす必然性は全くないといえる。

効果その3.成長促進因子を抑制する。

 前述したように、高血糖と高インシュリンはエイジングを加速する。同じことが成長促進因子、すなわち成長ホルモンとIGF-1(インシュリン様成長因子)についてもいえる。

 これらの成長促進因子は、成長期には不可欠だが、年をとるにつれ有害な一面も出てくることについては既述したとおりである。

 南ミシガン大学と国立加齢研究所の研究によると、成長ホルモン値が低いマウスは最大65%も寿命が延びたということだ!

 あなたもカロリスを実践すれば、血糖・インシュリン・成長ホルモン・IGF-1値が下がり、SIRT1を活性化することができるのだ。そして、加齢を遅らせることも可能となるのである。

蛋白質を取りすぎるとIGF-1が増加する

 蛋白質をとると、摂取カロリーそのものは低くても、血中IGF-1値が増えることが多くの研究で示されている。

 2004年のハーバード大学の研究によれば、IGF-1が高いとSIRT1が不活化されてしまうだけでなく、癌の発生率を増やしたり、癌の成長を促進することが分かっている。

 カロリー制限とともに蛋白摂取も制限すべきとはいわないまでも、体重1kgあたりの蛋白摂取量0.8gという推奨摂取値(DRI)は遵守するのが望ましいであろう。

 摂取量だけではなく蛋白質の吸収率も考慮する必要がある。蛋白質がどれだけ吸収、利用されるかはPDCAAS(Protein Digestibility Corrected Amino Acid Score)に記載されている。カロリスライフでは、豆類や穀物類などの吸収率の低い蛋白源を使うことになる。

蛋白質吸収係数

  1. ホエイ 1.34
  2. ミルク 1.21
  3. 卵白 1.18
  4. 牛肉 0.92
  5. 大豆 0.91
  6. ピーナツ 0.52
  7. セイタン 0.25

(省略図p.17)

効果その4.細胞減少を防ぐ。

 加齢とともに、細胞の新陳代謝能は衰えていく。これが加齢疾患の根底にあると考える研究者もいる。

 デュークエルダー大学のマウス実験では、動脈硬化が進んだ老年マウスに、若年マウスの細胞を注入してやれば血管の修復機能が回復することが分かった。その他、数多くのマウス実験で、カロリスにより細胞修復能が若年レベルに維持されることが分かっている。

 それではヒトではどうか?
 CRソサイアティとワシントン大学ルイージ・フォンタナ准教授の共同研究が現在も進行中である。2004年の発表によれば、カロリス実践者の頚動脈内壁厚は0.4-0.6mmであり、平均値の0.7mm-0.9mmよりも40%低い。これはカロリス実践者では、動脈硬化のリスクが低いことを示唆している。

脳細胞の若返り

 もし、アンチエイジングにいそしんでも、オツムの方はボケ進行というのであればいただけない。

 現在、最も注目されているカロリスの成果は、まさに、この脳機能の改善ということにある。マーク・マットソン博士の研究によれば、カロリスにより

  1. 脳細胞の新生が促進される。
  2. 身体を動かしたり、脳トレと組み合わせると、認知症を抑制する。

ことが分かってきている。

 マーク博士の研究を実際のカロリスに応用すれば、長短期記憶の改善・認知能の改善に役立てることができる。外国語の学習や、楽器演奏などを組み合わせればすばらしい効果が得られるだろう。知能が改善したかどうかは、IQテストをすれば簡単に分かるはずだ。

癌を防ぎ、新陳代謝を促す

 古くなった不要な細胞を廃棄することは、若さを保つ上でとても重要なことである。

 「へび」を例に挙げてみよう。脱皮の過程では、古い皮膚は脱ぎ捨てられ、下からに新しい真皮が現れてくる。つまり、「天然フェースリフト」だ。ヒトの場合でも、皮膚のような細胞分裂が活発な部位では、カロリスにより新陳代謝が活性化する。

 新陳代謝が行われると、古い細胞が癌化しそうになっても体外に排出され、癌にはならない。しかし、年齢とともに、この代謝能は衰えてしまう。カロリスを行うと、新陳代謝が賦活化し、修復能も回復してくるため、癌にかかりにくくなるのである(ステファン博士の研究)。

 新陳代謝を促し、古い細胞は捨て去るだけではない。一方で、カロリスによりSIRT1の活性化されると、必要不可欠な細胞は温存されることが2004年のシンクレア博士とコーヘン博士の研究で明らかとなっている。

効果その5.体内炎症を起こりにくくする。

 炎症というと、腫れたり、充血したり、痛かったりとあまり良いイメージはないが、すべての炎症反応が悪いというわけではない。組織修復や免疫反応において、重要な役割を担っているのである。しかし、炎症が起こると、動脈炎や動脈硬化などの加齢疾患、癌疾患や心血管病変も発生しやすくなると考えられている。

 カロリスでこの炎症が起こりにくくなるというのは、主に体重が減るためだ。体重が増えると、脂肪細胞からさまざまな起炎物質が分泌され、体内炎症は起きやすくなる。しかし、カロリスにより、体重が減れば起炎物質が減り、炎症も起こりにくくなるのである。

 また、「カロリスでは、血液も痩せるのだ」ということをぜひ覚えておいてほしい。血液中の血小板凝集成分が減って、ヘマトクリットや白血球数値が低下するのである。このヘマトクリット値や白血球数は、炎症の程度を示すバイオデータなので、この値が低いということは炎症も起こりにくいということなのだ。

 このような血中データの変化は、総じて健康によいはずだが、アスピリンや魚油などを摂っている場合には注意が必要だ。カロリスですでに強力に炎症を抑制した上で、さらに抗炎症剤やサプリメントが必要かどうかについては主治医と充分相談されることをお勧めする。

効果その6.若々しい身体を維持する。

 三択問題。ホルモンレベルを維持するためにはどうしたらよいだろうか?

  1. ホルモンをいっぱい補充する。
  2. 自然にホルモンを分泌させるハーブそのほかの物質を摂取する。
  3. ホルモンそのものの分泌は抑える。そして、ホルモンを有効に利用できるようにする。

 アンチエイジング的には3が正解だ。

 「過ぎたるは及ばざるが如し」というが、カロリスの要諦は「less is more」である。この「leess is more」をマントラのようにしっかり胸に刻んでおいてほしい。ホルモンのレベルが低下すると、レセプター数は増加し、ホルモンを有効活用できるようになるのだ。

 成長関連のホルモン値をさげておくことの重要性については、既に申しあげたとおりであるが、これはカロリスによって各種ホルモンの産生能が失われてしまうということではない。むしろ逆であって、カロリスを続けていけば、年をとってもホルモン産生能を維持し、ホルモンへの感受性を維持することが可能となるのだ。

 今までに述べてきたことはすべて若々しい身体を保つことにつながる。カロリー摂取量を減らすことによって、ホルミーシスが発生し、SIRT1をはじめとする長寿遺伝子を活性化させることができる。その結果、若いころの体重、若々しい気持ち、complextionを維持することができることになる。

 以上、この章ではカロリスの総論を述べた。いよいよ、次章以降、具体的にどうすればカロリスを実践できるのかについて展開する。カロリスの目標を、5~10%減あたりからソロソロ始めるのか、10~20%減と大胆にふみこんでいくのか。。。いずれにせよ、科学的データに基づいて、長寿で健康な人生をおくる方法について述べていく予定だ。

抄読会/thecrway/1.カロリーリストリクションとは.txt · 最終更新: 2011/04/13 12:32 by staff
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